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ディズニー再開、「夢の王国」の意地と不安(日経Web)の写し [東日本大震災]

2011/4/25 7:00の記事です。

 1カ月ぶりに響いた歓声が東京ディズニーランド(TDL、千葉県浦安市)への期待と不安を象徴していた。東日本大震災による休園から、サービス水準を落とさないままでの再開。国内随一のレジャー施設の意地を見せた。だが初日となった4月15日の入園者数は予想に反して伸び悩み、見慣れた行列も控えめだった。先行きには原発事故や景気減速といった外部要因に加え、夏場の節電対策や入園料引き上げの影響など、幾多の難題が待ち構える。TDLの試練は続く。

 今回の震災で浦安市は液状化現象に見舞われ、インフラ網が深刻な打撃を被った。TDLの再開の裏では、人々に感動を演出する華やかな舞台を死守しようとする創業以来のDNAが働いた。

■ミッキーと輪の中心に

 「一緒に写真撮って下さい」。晴天に恵まれた4月15日午前8時半過ぎ、開園した東京ディズニーランドの広場では、入園者の人だかりができていた。シャッターに収まったのはミッキーマウスだけではない。輪の中心には運営会社オリエンタルランド会長の加賀見俊夫(75)もいた。35日ぶりの再開を満喫する入園者と一緒に、ほほ笑みながら撮影に応じていた。

 1995年に社長に就任し、現在もトップに君臨する加賀見は、東京ディズニーランドの顔と言っていい。2001年オープンの東京ディズニーシー(TDS)の立ち上げにも奔走した。58年に京成電鉄に入社。経理部門などを経て、60年のオリエンタルランド設立時から同社の仕事も兼務するようになった。ここで「人生の師」と仰ぐ高橋政知(故人)と出会う。

 高橋はオリエンタルランドの二代目の社長で、米ウォルト・ディズニー・プロダクション社(当時)との誘致交渉をまとめたTDLの「生みの親」とされる。TDL開発に伴う浦安市沖の漁業補償交渉では一升瓶を片手に漁師と渡り合った。豪快な性格の一方で、TDLの開業では品質に一切の妥協を許さない細心さを持ち合わせていた。

■震災後1週間で再開可能に

 

 今回の震災対応でも、細心さと大胆さを引き継いだ。震災が起きた3月11日、社長の上西京一郎(53)は地震発生直後に危機管理チームを設け、入園者の安全確保を指示。並行して別の首脳はテーマパークの補修をにらみ、同日中に大手ゼネコンに人手を手配した。翌12日から自社の技術者1000人を総動員。1週間後の18日までに建物やアトラクションの安全確認を終え、「ハード面ではいつでも再開できる状態を整えた」(同社広報部)。

 だが、そこに節電問題が立ちはだかった。TDLとTDSの電力使用量は1日平均で約57万キロワット時と、ハウステンボス(長崎県佐世保市)の約7倍に上る。華やかな光の演出で夢の王国を支える電力は、ディズニーランドの魅力の源泉。長期間の節電を迫られれば、集客にも影響を及ぼしかねない。加賀見は「電力不足の解消には数年かかる」と判断。国内大手メーカー幹部と直接交渉に乗り出し、いち早く都市ガスを使う出力5000キロワットの自家発電装置3基を確保した。投資額は30億円規模に膨らむが、ここは生命線と踏んだ。

 電力とともに、正常化に欠かせないもう1つのカギがTDLが立地する浦安市の復旧だ。顧客や従業員が集中する地域でもある。

 「どんな支援が必要ですか」。埋め立て地が大半を占める浦安市では、震災によって市の面積の4分の3で液状化現象が起きた。下水道やガスの復旧に時間がかかるなか、市役所に隣接する災害対策本部には加賀見や上西ら経営陣が毎週のように顔を見せた。「キャスト」と呼ぶ施設のアルバイト従業員などを業務のサポートとしてのべ1000人近くを派遣し、道路にたまった泥の排除などを手伝いながら復旧状況を見極め続けた。

 

 オリエンタルランドの魅力の1つは約1万8000人に上るキャストのサービス力だ。少子化でキャストの確保は年々厳しさを増している。大切なキャストを逃さないため、同社は当面の休園を決めるとともに、4月末まで賃金の6割程度を支払うことを即決した。「何か困っていることはないですか」。正社員が自宅待機中のキャストに電話などでこまめに連絡を取り、辞めたキャストはほとんどいなかったという。

■待ち時間は15分以下

 震災後、想定しうる限りの手を打ったオリエンタルランドの経営陣。だが震災の影響は読み切れなかった。

 TDLが営業を再開した4月15日。午前8時の開園前から1万人の熱狂的なファンが詰めかけた。だが1日の入園者数は1万7000人どまり。例年、4月中旬の平日のTDLには2万~3万人が入園しているとみられるが、再開初日はこれを下回った。午前中は「プーさんのハニーハント」などの人気アトラクションも含め、大半の待ち時間は15分以下。復活祭をテーマにした人気のパレードも場所を選ばなければ、ほとんどの入園者が最前列で楽しめる状態だった。首脳の1人は「客足が読める状況になく、再開することが大事」としながらも期待を込めて4万人の入園を見込んでいたが、再出発初日の入園者はその半分以下にとどまった。

 試練は重なる。オリエンタルランドは23日からの入園料引き上げを決めていた。これまで価格引き上げと並行して施設の価値を高めることで成長を続けてきたオリエンタルランド。83年のTDL開業時の大人の「1デーパスポート」は3900円だったが、23日からは8度目の入園料引き上げで6200円に引き上げられた。

 08年秋のリーマン・ショック後に直営ホテルの稼働率が下がった際には、経営陣の過半数から「値下げすべきだ」との意見が出された。これに対し、加賀見は「価格はサービスに応じたもので、一度値下げすれば再び上げることは難しい」と強く反対した。

 

 
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 だが原発事故や余震の影響がいつまで続くか分からない。経験したことのない34日間の休園、節電による足かせがはめられた中での値上げ。しかも原発事故の影響で海外からの入園者急減は避けられない情勢だ。同社は23日からのTDLの営業時間拡大、28日からのTDSの再開と矢継ぎ早に手を打つが、もはや経営のかじ取りは未体験ゾーンに突入している。

 様々な不安を抱える加賀見にはもう1つ、世代交代という大きな宿題が待ち受ける。オリエンタルランドの取締役は社外を除き11人だが、社長の上西ら7人はTDLが着工した80年以降の入社。米ウォルト社とのライセンス契約を取り付け、TDLの立地確保に奔走した経験を知る者は少数派になった。

■「海超える想像力で臨め」

 「なるべく自分は表舞台に立たないようにする」。加賀見は最近、こんな言葉をよく口にする。DNAを受け継ぐ難しさは痛いほど分かっている。これまで入園者数のベースアップを続けてきたが、12年3月期は4月の休園だけでも100万~200万人減の影響が出るとみられる。入園者数の大幅減は避けられず、TDL誕生以来の危機になることは間違いない。創業のDNAを生かし、現状を維持するのではなく、新しい成長力をつくれるか。

 「ここに新たな何かを創るときは、海を超えるような想像力をもって臨め」。TDL生みの親、高橋の言葉が加賀見らに再び突きつけられている。

=敬称略

(工藤正晃、中村直文)


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